税理士新聞 2000年8月25日号
経理や給与計算、顧客管理などのデータを社外に出すことに対しては、いまだにクライアントの間では抵抗感が強い。一般への認知度が低いのは、仕事として地味で脚光を浴びにくいという理由があるが、それ以外に、産業として未成熟であることも挙げられる。アウトソーシングを業とするそれぞれの会社が一社一社のクライアントから確実な信頼を勝ち得ていかないと、業界全体の信頼度が上がっていかない。
以前もこのコーナーで触れたが、アウトソーシングには、クライアントの固定費や設備などを減らす効果以外に、構造的にコストを削減できる要因がいくつもある。業務フローの効率化、人材の共有、設備の共有、時間の共有、コストの集中による効率化などであるが、こういった要因をきちんと生かして、クライアントのメリットを最大化するようにすることが必要だ。
こういった要因を考えたときには、規模を大きく、そして業務範囲を狭くすることが有効となる。これによりスケールメリットを享受することができ、業務処理の単価を大きく落とすことも可能となるからだ。
たとえば、ある大手のアウトソーシング会社は、社員の7割をシステム構築関係の人材が占める。この会社は別にシステム構築を請け負っているわけではなく、クライアントの業務処理の一部を自動化するためにコンピュータシステムを開発しているのである。一度投資をすることで自動化が達成できれば、ランニングコストは目に見えて落ちていくので、コスト削減効果は大きいといえる。
しかし、単にクライアントの投資を肩代わりしているわけではなく、数社分の処理をひとつのシステムで行っているため、一社でできないような投資も可能となっている。こういった手法は、システム開発コストを償却していくための業務量を確保しなければならず、ある程度の規模がないと難しいが、逆にいえばアウトソーシングであるからこそ達成できることであるともいえる。
また、別の中堅アウトソーシング会社では、在宅ワーカーを組織化してクライアントの事務処理を割り振っている。在宅勤務はオフィスのコストや通勤費がかからないという利点がある反面、クオリティーや納期の管理が難しく、この形態でサービスを続けるには膨大なノウハウが必要となる。
この会社は、周到な準備と長年の試行錯誤を積み重ねてノウハウを構築し、現在の地位を築いてきた。こうしたことも、小規模のアウトソーシング会社あるいはクライアントが自社で行うのは難しく、この形態に特化したアウトソーシング会社でなければできないことである。
アウトソーシングとは、単なる外注とは違い、立派な経営革新手法の一つである。アウトソーシング業が「産業」として成長していくために、この産業の底辺を担う者のひとりとして、プロとしての意識をもってアウトソーシング業を産業としての確立に貢献していきたい。
(株)バックオフィス 取締役副社長・小杉 和久